ファッションデザイナー 稲葉みちよ
聞き手 NHK情報ネットワーク
チーフプロデューサー加藤 和郎
(いなば みちよ)
横浜市出身。バンタンデザイン研究所ファッションデザイン科卒業。輸入テキスタイル会社、専門店バイヤーを経て1993年に独立。(有)ワッツアップを設立し、オリジナルブランドを立ち上げる。 96年から年2回の東京コレクションに発表。展示会をあわせて毎年100点以上のデザインを手がける。98年コレクションではコンピュータゲームとファッションの共存をテーマにしたほか、99年にはPC用バッグをデザインするなど、デジタルとの融合を図るIT時代のファッションデザイナーとして注目されている。
情報端末を装う
−− 今年のNY・ヨーロッパコレクションは、強さと脆さ、シックさとセクシーさ、甘さとパワフルさというように、異なるイメージの組み合わせが目立つそうです。 『ダブルエッジ(両極)』というのだそうですが、稲葉さんがコンセプトにしている『相対性の魅力』に通じるところがありますね。最近はデジタルとアナログを融合するファッションデザイナーとして脚光を浴びていらっしゃいますが、この取り組みはいつごろからですか。
稲葉 ファッションの対象としてコンピュータを意識したのは2年前です。ノートパソコンが欲しくなった時に、「どこに入れて持ち歩けばいいのかな。仕事っぽくなくて、オシャレに持ち運べるバッグが欲しいな」と思いデザインしてみたんです。そして東芝さん に持ち込んだら商品化された、というのが最初です。
−− パソコンを水平に納めて運べる、ふっくらしたスタイルの『ダイナブック・バッグ』ですね。 「ドクターバッグ(往診用カバン)に似ているな」というのが第一印象だったけれど、ピクニックにでも出かけるような雰囲気も持っています。パソコンを使う時は、バッグのまま机の上に置いてキーボードより上の部分のファスナーをあけると、上の部分がフタのように外れてしまう。機能的でシャレていますね。
稲葉 コーヒーショップなんかでは、周りの空気を壊さずに仕事をしたい。よそからは、ゆっくりお茶を楽しんでいるように見せたい。言い替えれば、お弁当を隠すシステムなんです。
−− そのあとは、パソコンを背負ってしまう『サスペンダーバッグ』や、携帯電話をブーツのポケットに入れてしまう『レッグハイド』など、手で持ち運ばずに身に着けてしまうというスタイルへ変わって来ていますね。
稲葉 ええ、ウェアラブルですね。今はメーカーさんが、あくまでも機械としてしか考えていないから、仕方なく洋服屋がそれを身に着けるためのデザインをしています。 だから、どうやってもカッコ悪くなってしまいます。エレガントにはほど遠いんです。でも、これからは端末自体が身体に沿うように進化してくると思います。それが、本当のウェアラブルですよね。 だから、パソコンが腕時計に組み込まれるのは一番自然だと思います。
もう少し進めて考えれば、パソコンのチップをピアスにして、サングラスのようなディスプレーを音声認識で操作するんです。ピアスに入りきらない機能はペンダントや腕時計の形にしてしまいます。 それから、携帯電話はネックレスにしたいですね。ひところチェーンが流行りましたでしょう。手前で巻き付けてネクタイみたいにすると、アクセサリーになったじゃないですか。 あんな形のネックレス電話で、片一方を耳に当てて、もう片一方で話します。で、操作は全部おしゃれなバンドでやるんです。それって、服装として普通ですよね。だから私の考える究極のウエアラブル端末はアクセサリーです。
−− 装着という硬いイメージから、装おうというやさしさに変わりますね。
稲葉 でしょう。大体、携帯電話がなぜ四角で硬くなければならないのか、私わからないんです。テレビだって、子どもがぶつかっても痛くないように丸くてふわふわしていてもいいんじゃないでしょうか。 丸ければ、リモートで操作して手元に転がしてくることだって出来ますよ。
−− 「手元に呼べるボール型テレビ。見終わったらお部屋の隅へコロコロ」なんて楽しいですね。ワールドカップの観戦用に商品化できるかもしれない。
ゲームクイーン
−− では、ミチヨ流発想の秘密を解明してゆくことにしましょうか。横浜の元町を拠点にしていらっしゃいますが、ご出身はどちらですか。
稲葉 元町とはちょっとずれていますが、近くです。
−− 浜っ子なんですね。
稲葉 はい。父が船員さんなんです。横浜にはPX(米軍の酒保)がありましたでしょう。小さいときは、フェンス越しにアメリカ人たちが格好良くファッショナブルに歩いているのを、みんなで憧れて見ていたものです。
−− そんな体験に加えて、70年代に若者ファッションをリードした『ハマトラ(横浜トラディショナル)』も影響していませんか。 街じゅうがファッション発信地として沸いている中で育ったんでしょう。
稲葉 そうですね。実際にあれを着たのは先輩達で、元々はアイビーをどこまで崩せるかということだったようです。不良がやっていたファッションだったのが、段々お利口さんファッションに変わっていったみたいなんです。
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