2012年3月28日水曜日

MICHIYO INABA Web Site [ Press Release ]


ファッションデザイナー 稲葉みちよ 
聞き手 NHK情報ネットワーク
チーフプロデューサー加藤 和郎

(いなば みちよ)
横浜市出身。バンタンデザイン研究所ファッションデザイン科卒業。輸入テキスタイル会社、専門店バイヤーを経て1993年に独立。(有)ワッツアップを設立し、オリジナルブランドを立ち上げる。 96年から年2回の東京コレクションに発表。展示会をあわせて毎年100点以上のデザインを手がける。98年コレクションではコンピュータゲームとファッションの共存をテーマにしたほか、99年にはPC用バッグをデザインするなど、デジタルとの融合を図るIT時代のファッションデザイナーとして注目されている。

情報端末を装う
−− 今年のNY・ヨーロッパコレクションは、強さと脆さ、シックさとセクシーさ、甘さとパワフルさというように、異なるイメージの組み合わせが目立つそうです。 『ダブルエッジ(両極)』というのだそうですが、稲葉さんがコンセプトにしている『相対性の魅力』に通じるところがありますね。最近はデジタルとアナログを融合するファッションデザイナーとして脚光を浴びていらっしゃいますが、この取り組みはいつごろからですか。
稲葉 ファッションの対象としてコンピュータを意識したのは2年前です。ノートパソコンが欲しくなった時に、「どこに入れて持ち歩けばいいのかな。仕事っぽくなくて、オシャレに持ち運べるバッグが欲しいな」と思いデザインしてみたんです。そして東芝さん に持ち込んだら商品化された、というのが最初です。

−− パソコンを水平に納めて運べる、ふっくらしたスタイルの『ダイナブック・バッグ』ですね。 「ドクターバッグ(往診用カバン)に似ているな」というのが第一印象だったけれど、ピクニックにでも出かけるような雰囲気も持っています。パソコンを使う時は、バッグのまま机の上に置いてキーボードより上の部分のファスナーをあけると、上の部分がフタのように外れてしまう。機能的でシャレていますね。
稲葉 コーヒーショップなんかでは、周りの空気を壊さずに仕事をしたい。よそからは、ゆっくりお茶を楽しんでいるように見せたい。言い替えれば、お弁当を隠すシステムなんです。

−− そのあとは、パソコンを背負ってしまう『サスペンダーバッグ』や、携帯電話をブーツのポケットに入れてしまう『レッグハイド』など、手で持ち運ばずに身に着けてしまうというスタイルへ変わって来ていますね。
稲葉 ええ、ウェアラブルですね。今はメーカーさんが、あくまでも機械としてしか考えていないから、仕方なく洋服屋がそれを身に着けるためのデザインをしています。 だから、どうやってもカッコ悪くなってしまいます。エレガントにはほど遠いんです。でも、これからは端末自体が身体に沿うように進化してくると思います。それが、本当のウェアラブルですよね。 だから、パソコンが腕時計に組み込まれるのは一番自然だと思います。
もう少し進めて考えれば、パソコンのチップをピアスにして、サングラスのようなディスプレーを音声認識で操作するんです。ピアスに入りきらない機能はペンダントや腕時計の形にしてしまいます。 それから、携帯電話はネックレスにしたいですね。ひところチェーンが流行りましたでしょう。手前で巻き付けてネクタイみたいにすると、アクセサリーになったじゃないですか。 あんな形のネックレス電話で、片一方を耳に当てて、もう片一方で話します。で、操作は全部おしゃれなバンドでやるんです。それって、服装として普通ですよね。だから私の考える究極のウエアラブル端末はアクセサリーです。

−− 装着という硬いイメージから、装おうというやさしさに変わりますね。
稲葉 でしょう。大体、携帯電話がなぜ四角で硬くなければならないのか、私わからないんです。テレビだって、子どもがぶつかっても痛くないように丸くてふわふわしていてもいいんじゃないでしょうか。 丸ければ、リモートで操作して手元に転がしてくることだって出来ますよ。

−− 「手元に呼べるボール型テレビ。見終わったらお部屋の隅へコロコロ」なんて楽しいですね。ワールドカップの観戦用に商品化できるかもしれない。

ゲームクイーン
−− では、ミチヨ流発想の秘密を解明してゆくことにしましょうか。横浜の元町を拠点にしていらっしゃいますが、ご出身はどちらですか。
稲葉 元町とはちょっとずれていますが、近くです。

−− 浜っ子なんですね。
稲葉 はい。父が船員さんなんです。横浜にはPX(米軍の酒保)がありましたでしょう。小さいときは、フェンス越しにアメリカ人たちが格好良くファッショナブルに歩いているのを、みんなで憧れて見ていたものです。

−− そんな体験に加えて、70年代に若者ファッションをリードした『ハマトラ(横浜トラディショナル)』も影響していませんか。 街じゅうがファッション発信地として沸いている中で育ったんでしょう。
稲葉 そうですね。実際にあれを着たのは先輩達で、元々はアイビーをどこまで崩せるかということだったようです。不良がやっていたファッションだったのが、段々お利口さんファッションに変わっていったみたいなんです。


なぜ私はいつもロッキングチェアでロックしなければならないの

−− そういう環境の中で、デザイナーになろうと思ったのはいつ頃からですか。
稲葉 何かになりたいと意識した最初のものがデザイナーですから、幼い頃からですね。母がオーダーメイドで高級品を縫っていましたから、シルクやカシミアの端切れを横からちょっともらっては、バービーちゃんとかリカちゃんの服を作っていました。

−− ミチヨ・ファースト・オリジナルですね。
稲葉 結構奇抜なのを作りました。小学校に上がっても、やっぱり洋服とかファッションにすごい興味を持っていたのですが、ちょっとマセていまして、最初に好きになったのがエルビス・プレスリーだったんです。 GIブルースとか、ブルーハワイとか、ああいうのが好きで好きで、本当にファッショナブルだなと思いました。一緒に出てくる女性達のファッションやポニーテールの髪型とかも好きでしたし・・・。 そういう風に、周りの子たちとはちょっとずれた調子でした。

−− いわゆるフィフティーズですね。こちらはリアルタイムに通過したけれど、そちらは映画の『アメリカン・グラフィティー』でよみがえった20年後のフィフティーズね。
稲葉 ええ、ジルバやツイストを小学校の時に練習したりして、もうフィフティーズにどっぷり。それが許されたのも横浜の空気でしょうね。 恥ずかしいから他人にはあまりお話してないんですけれど、ゲームの女性チャンピオンになったこともあるんですよ。

−− コンピュータゲームのですか。
稲葉 ええ、小学生の頃にゲームセンターができて、大人の人たちと一緒なら入れたんです。インベーダーゲームは、そんなにうまくなかったけれど、そのあとセガさんが出した『ペンゴ』っていうゲームでは、女性チャンピオンになって時計をいただきました。 ペンギンに変わって氷を押しだしてゆくというゲームなんですが、私がやると100円で何時間も遊べてしまうんです。もう、バグって機械が動かなくなるまでやりました。お店の人もきっと、うんざりしていたと思います。 もう、ホントごめんなさいです。

−− デジタルとの融合を目指すファッションデザイナーのルーツは、意外や小学生時代のゲームクイーンにあったんですね。
稲葉 始めてしゃべっちゃったんですけど。そうかも知れませんね。ゲームはどうやって出きるのかなという興味はずっと持っていました。 でも一方で大好きだったファッションの勉強をして、テキスタイルの仕事に入ったんです。そこは輸入生地を扱っていて、私はオートクチュールの先生にバイイングするのをセレクトするっていう仕事までさせていただきました。 私がセレクトしたものは、なぜか当たるんですね。駆け出しなのにそこまでやらせていただけるので、生地の端をジョキジョキ切って、サンプルのスワップ帳を作るのが楽しかったですね。

−− すごい目利きだったんだ。
稲葉 母親がお客さんとファッション誌をめくりながら選んでいるのを、子供の頃から見てますからね。

−− 知らず知らずのうちに目が肥えていたんですね。それはいくつの時ですか。
稲葉 二十歳です。バンタンデザイン研究所で勉強していたんですけれど、卒業が決まってから証書いただくまでに時間ありますよね。 その間に入れてもらっちゃったんです。で、「卒業証書、もらってきました」って言ったら、「ああ、そんなの必要ないよ」みたいな感じで・・・。もう実践、実践といった空気でした。

−− バンタンは"成功しているプロによる、プロのための学校"と言われていましたね。 実は僕もデザインに興味があって、趣味的にその方面を雑学していたのだけれど、専門誌で「デザイン戦略時代のクリエイター育成」といったキャッチフレーズをよく見かけたものです。 バンタンと実学とを併行して学べたなんて、ぜいたく過ぎますよ。でも素材を扱うだけではものたりなかったでしょう。
稲葉 はい、自分でもいろいろ作りたくなって・・・。そのころアクセサリーに興味を持ち始めていたので、家で作ったものを青山なんかの小さいお店に「ちょっと置かして」とか言って、サイド・ビジネスをしました。

−− で、デザインが本業になったのは?
稲葉 それが、ちょっと回り道してしまって・・・。立ち上ったばかりのゲームソフト会社に関わってしまったんです。ゲームがお好きな方ならよくご存知の『スクウェア』です。 学生ばかりの会社で最初は日吉にあり銀座に移りました。そこでは女の子のまとめ役とユーザー・サポートなどをやっていましたが、とても勉強になりました。 たとえば、小学生のユーザーから電話がかかってきます。「すいません、スクエアさんですか?ちょっと今オレ、バグってるんですけど、これどうのこうの」って言うと、社員みんなが「バグった!」って言って即対策会議なんです。 そうした情熱が次の商売につながっていくのを目の当たりに見てきました。それから「ゲームって、こうやって作られるんだ」ということを企画の段階から追うことができたのも収穫だったと思っています。


ジャージをFRAMにどのように

−− テキスタイルの会社で素材の流通を学び、スクウェアで企画から製品までの流れを学んで。これはすごいカリキュラムですね。 スクウェアにはいつまでいらっしゃったんですか。
稲葉 3年近くいました。スクウェアが任天堂と契約してドッグいうグループを作り、初めてファミコンの組織を立ち上げたときには、記者会見の受付をやりました。 いろいろ経験させていただいて、「もうちょっとファッショナブルなものに組み合わせられないかな」って考えてはいたんですが、やっぱりオタクの世界なんですね。 結局、ファッションの世界に戻ってバイイングの専門店に入りました。そこでは、私の"目"を買ってくださるボスに連れ歩かれて、展示会で一度に何千万とかを仕入れるなんていうのをやっていました。 お客さんが見えていないと出来ることではありませんから、結局バイイングから販売までです。そうするうちに、私のオリジナルも出させていただいたりして、独立したのが93年です。

経営デザイナー
−− 元町に『AURA』というお店とアトリエを構えたんですね。ブランドのロゴが龍なのは横浜発信をイメージしてですか。
稲葉 いえいえ、夢の中に昔から龍が出てくるんですよ。変に聞こえるかもしれませんが、龍がアドバイスしてくれる事もあるんです。 それを知ってる先輩が「ミチヨちゃん独立するなら龍を入れようよ」って言って出世払いでデザインして下さったんです。出世してないのでまだ払ってないんですけれど。

−− もう十分に払い時です。龍だって肩身が狭いと言っていますよ。それにしても、おしとやかでエレガントな龍ですね。今でも囁いてくれますか。
稲葉 くれます、くれます。この龍のお陰で、中華街の龍舞の皆さんにも応援していただいていますしね。

−− 独立して9年目になりますね。ユニクロ以外は大変そうだけど・・・。
稲葉 創めた時に、どうやって自分の商売をしていこうかなって考えたんです。普通のアパレルの会社だったら、展示会をやってバイヤーを集めて卸すわけですよね。 卸された側としては、掛け率がいろいろあります。そして、ある時期はセールにかけなきゃいけないような感覚になってきて、お客様と板ばさみになっちゃうんです。 お店にいたときに、昨日までプロパーといってそのままの価格で売っていたものが、明日は50パーセント・オフになるというので、お客さんに目の前で泣かれたことがあるんです。 たしかにおかしい、不条理だって思いました。 だったら最初からセールにできないような価格付けをする会社ができないかなあ、アパレルができないかなあって考えていたんですね。 そこで親しい社長さんに相談すると、「そんなの無理だよ、ミチヨさん、何考えてるの?」って笑われました。 でも、"出来るって信じている自分"を信じる以外ないからやってみようと思って始めました。

−− セールをしないというのは、安売りの赤札を付けないということですね。
稲葉 それには、多めに作らずに在庫を持たないようにすればいいんです。 そうすれば、「卸を経たものなら3倍はしますよね、よそがたとえセールしたとしてもこの値段までは下がりません。 私を信じてください」って自信を持ってお客さんに言えます。 で、これまでの8年間、セールなしで全部売り切っています。 うちは、展示会に来ていただくのは直接お客さんです。 その場で試着していただいて注文してもらう。 今では1万人のお客様が信用し認めて下さったうえで成り立っていますから・・・、私がお客さんを裏切ったらそれで終わりです。

−− ファッションデザイナーである前に、経営デザイナーなんですね。
稲葉 多分、好きなんです、人間が。コンピュータも好きですし、洋服も好きですし、 すべて裏切りたくないっていう意志がすごく強いのです。だから洋服に関しても、細かいディテールまで気を配ります。工場で働く人の具合まで気を配らなきゃいけない と思っています。体調が悪そうなときは、あんまり仕事を入れないようにして、他の工場に頼んだりとかして、流しながら作るということはやらせていません。電話すれ ばその応対や声の調子で体調とかが分かりますから・・・。どこかでマイナスが生じると、売れなくなってしまうような気がします。「売れるもの、みんなに愛されるもの というのは、どこまでも純粋じゃなくちゃいけない」というのが、私の信念なんです。 それを押し通してゆくためには、「セールをしない」にこだわり続けることと、あと はメディアの方たちに対して背伸びしたり変に縮こまることなしに、本気で伝えることしかないと思っています。


他のものよりいくつかの単三電池より大きいですか?

−− すごいねえ、お見それしました。「売れるもの愛されるものは、どこまでも純 粋じゃなくちゃいけない」は、スタッフの人間教育にもなっているんじゃないですか。
稲葉 うちのスタッフの子達は、全員が"居なかったら困る"という存在なんです。ですから、とにかく全部を覚えさせます。接客から生産から生地の管理などまですべてをやらないと、お客様に対して絶対にボロが出てしまいます。いい加減なことがば れた途端にコミュニケーションが断たれてしまうんだ、という風に伝えると、みんな分かってくれます。 それを分かってくれるスタッフがいればこそ、少人数でいながら大きい仕事に持っ ていけるんじゃないでしょうか。面白いもので、全員に何でもやらせるといっても、やはりそれぞれに長けている部分が出てくるんですよ。この子ってデータベース作り に向いているなとか、この子はお客様の事を管理するのに向いているなとか感じると、そちらの方で伸ばしてあげれば、そのうち彼女達が独立してくれるんじゃないかと期 待したりするんです。そしたら、アウトソーシングで頼もうかなと思う。彼女達は他の仕事も入れられながら、目先を広げる事ができるし、うち以外の情報が入るんです よね。

−− スタッフの将来までデザインしてしまうんですね。
稲葉 ゲーム感覚なんですよ、きっと。

−− そうか、スタッフをゲームのキャラクターに見立てているんですね。
稲葉 そうそう、キャラ決めてますね、はい。

−− ゲーマー経験がここでも活きてますね。しかし、ファッションクリエーターの 世界では特異な存在でしょう。「私は感性を大事にしたいから、コンピュータや機械 とは向き合いたくない」という人が多いのではないですか。
稲葉 多分そういう人達にかぎって、実際にいじらせるとハマリますよ、すごく。私 は、デジタルとアナログって同じだと思ってるんです。だって、コンピュータは感受性持ってますから・・・。こちらが調子悪いときには、コンピュータも絶対に具合が悪くなる。だから感性の強い人は、余計にハマリやすいんじゃないかと思っているんです。ただ、周りにそういう人がいないから知らないだけ。

−− コンピュータは鏡だということですか。
稲葉 そうです、そうです、本当にそうです。コンピュータは鏡なんです。デジタル でグラフィック作ってる子達も、自分の気持ちが素直に画面にはね返ってくると言いますからね。生地を織る職人さん達と話していると、彼らがすごくデジタル的な考え をしていることに驚かされます。ですから、極端なアナログは、極端なデジタルになり得ると思うんです。

未完成の魅力
−− インターネットも早くから活用していますね。一昨年はいち早くブロードキャ スト・コムでショーの中継もやっているし。
稲葉 ファッションデザインは、アナログ寄りにすごく偏ってるんですね。ネットに のせると盗まれるっていうのを恐れて、毛嫌いしている人も多いです。でも私は、逆に盗んで欲しいと思います。どんどん盗んでくれて、同じようなカッティングで同じ ような色とかで、私が予想しなかったシチュエーションで展開してくれれば、それはそれでありがたいなと思ってるんです。その方が、私一人でやっているより広がるじゃ ないですか。

−− 流行るということは、似たものがいっぱい出てくることでもありますからね。 どうせ真似られるなら、「元祖は私よ」って早いところ公開してしまった方がいい。 どんなに亜流が出てきても、オリジナルに勝てないのは決まっているし、第一、先頭 を走るのって気持ちいいでしょうからね。
稲葉 私があまりにオープンなものですから、「次はどんなもの出すの?」って聞い てくる方までいますよ。うちはお客様との信頼関係で結ばれていますから、バンバン出しちゃってます。ただネットの場合、ホームページでモデルの正面の写真は極力出 さないように配慮しています。彼女たちにも肖像権がありますから。

−− それで、後ろ姿ばかりがずらっと並んでいるんですね。
稲葉 メイクでごまかせないのがバックなので、後ろ姿の美しいのって、私大好きな んです。その人の生き様みたいなものも全部後ろに出ますしね。だから「バック・スタイルを強調しているのよ」っていう風に言ってるんですけれども、実は肖像権なん です。

−− ショーの時にも、モデルたちへの気遣いは一流だと思いましたよ。
稲葉 モデルの子達は顔がビジネスだったりしますから、そこのところは大切にして あげないといけないと思っています。実際にショーをする時は、メンタルな部分もすごく大切なので、気に入ってる子達だけでなく毎回百人ぐらいを集めてオーディショ ンをしています。その時に、不思議といい恋愛をしてる子は、光るんです。「今日、どうした?」って言うと、「今、こうなってて」って、恋愛相談みたいなのを受けちゃったりするんです。

−− 人を見る感覚が鋭いんですね。
稲葉 上に上がっていく子は、顔に感性が現れてくるんです。私は完成したプロフェッ ショナルなモデルよりも、今売り出し中のトップといわれている子達を集めるんですね。
14,5歳からずっと見てきて、去年は良くなかったけど「今年18できれいになったねえ」 みたいな子をメインに持っていきたいと考えたとしますね。それでオーディションをやってみると、未完成のままだった感性にすごい可能性が出てきているのを発見しま す。感性はやはり顔に出るんです。


−− コレクションのテーマに『未感性』というのはどうですか。磨き上げる前の揺 れ動く感受性の時代。
稲葉
 すごーい。すごい発想。いいですね。それ下さい。

−− どうぞどうぞ、稲葉さんの言葉から誘われて出てきたものなんだから。それよ り、ミチヨ・ブランドの基本コンセプトである『リッチな不良』と『相対性の魅力』 は分かるようで分からない、でも分かるような気がするというカッコ良さがあります。 こういうの、好きですよ。
稲葉 ありがとうございます。相対性の方は、子どもの頃にアインシュタインの相対 性理論になぜか美学のようなものを感じてすごく惹かれました。ファッションにおいても、洋服のフォルムやバランスは宇宙の構造や成り立ちと基本的に通じるものがあ ると思うんです。プラスとマイナスがあって初めてバランスが保たれますし、男と女も、アナログとデジタルもそうだと思うんです。リッチな不良は、精神的な豊かさを 持ったアウトローというかエレガントな不良っぽさの魅力です。

−− 男ならハンフリーボガードやジェームスディーンといったところですね。

洗える絹の光琳ゴールド
−− コレクションのたびに新しいテーマを見つけるのも大変ですね。
稲葉 それが、あまり無理せずに出てくるんですよ。というのは、私は1万人以上の お客さんと実際に話して、「じゃあ、あなたはこういう状況だから、こういう服がいいわね」っていう提案をするという形でここまで来たんです。お客さんとお話しして いて、皆さんそれぞれが個人的にばらばらかというと、そうでもないんですね。これだけ多くのお客さんがいらっしゃると、むしろその時その時代の傾向の固まりという か共通項が見えてくる んです。ですから、そこをすくい取ればテーマが浮かび上がってきます。前回は『ゆらぎ』でしたが、みんな水に飢えてきたんです。潤いたいと思い始めました。10代か ら70代までのお客さんのほとんどのアンテナが、水の方に向いていました。私はアレルギー体質なので、気楽にシルクを着たい。そこで、自分でも水で洗えるシルクが欲 しいと思ったんです。たまたま石川県の小松織物工業協同組合と縁があったので、「私、実を言うと、洗るシルクを開発したいんです」って申し込んだんですね。そし て、織りの方からだけ考えると開発に時間がかかりそうなので、発想の転換をした方がいいんじゃないかと思い、元々テクノロジーとしてファイバー系に強い花王さんに 「洗剤と織りで共同開発しませんか」 って提案したんです。

−− デザイナーというより、プロデューサーですね。

稲葉 花王の企画部長たちは、ファッションショーに絡むのは初めてだからって面白 がってくれました。片一方で糸の撚り方を工夫して織り、片一方ではシリコンを使って絹の組織を壊さない洗剤を開発し、私はデザインを考える。三角の形って、ピラミッ ドを作っていくのと同じでまとまりやすいんですね。大成功でした。

−− 地場産業としての織物の側から、もう少し詳しく話していただけませんか。
稲葉 ちょうど、小松の組合から地場の絹織物を活性化させるためにチャレンジして みたいというお話がきたときだったんです。50人位集まられたところで、今までのコレクションのビデオなんかをお見せしながら、「今回は洗えるシルクっていうのを、 今自分が欲しいので開発したいと思っています。まだ決まってはいないんですが、エマールという洗剤がとっても気持ちいいので、そこのテクノロジーを使いたいと思っ てます」と言って一緒にやりたいと思う人を募ったんです。そしたら5社集まりました。そこで、「ミチヨさんはどの辺をイメージしてますか?」って質問されたので、 「九谷焼、古九谷を見せていただいて感動しました。あの色を出せませんか」と言ったら、「出せる」っておっしゃって。でも、洗えなきゃ話にならないし、風合いも必 要だし。私の中では尾形光琳がもう、ちらついてちらついて。どうしても、あのゴールドを出したい。

−− ほらほら、贅沢なことになってきた。
稲葉 開発費は本当は少なかったけど、もうしょうがなくかけて下さって・・・。純金 の金箔を使うものですから、職人さん達も「今まではしょぼい話ばっかりで、落ちていくばっかりだった。こんな景気のよい話は無いから」って盛り上がったんです。

−− 織物に金箔をどう使うんですか。
稲葉 練り込んで吹き付けるんです。本当は純金じゃなくても良かったし、ちょっと やりすぎな気はするんですけど。やりたかったんですって! それがまた、嬉しくなっちゃって、デザインもどんどん上がりましてね。

−− やる気の相乗効果ですね。肝心の洗えるというのはどうでしたか。
稲葉 糸を撚る方向や回転数をいろいろ工夫して、目くずれや縮みが出ないようにな りましたし、染めの方も色落ちしないように開発されました。織り屋さん達は、何十年もずっと関わってきた仕事じゃないですか。それが、放って置くと消えていく方に あるわけで、新しい事してでも守っていきたいという意気込みがすごかったんです。


−− 光琳をモチーフにした流水文様やかすれのゴールドは豪華ですね。あまりにも素敵なので僕もポケットチーフ用に端切れをいただいてしまいました。これが地場産業の復興の糸口になるといいですね。
稲葉 それが、なんと横浜のスカーフ産業にまで広がったんです。今までスカーフさえ作ってりゃ何とかなるって言っていたのが、あっちこっちでダメになってきました。 みんなが「ダメだダメだ」「ダメよ!」って言っている時に、やっぱり立ち上がろう としてる若い二代目とかがいるんですね。アポなしでいきなりうちに来てくれたんです。「ホームページでいろいろ見させてもらいました。小松の洗えるシルクとうちの洗える捺染とを組み合わせませんか」って。こういうのって、嬉しいですね。

−− 地場産業同士の仲人役まで回ってきましたか。ファッションは時代の風だといいますが、稲葉さんにはしばらくの間、地場からとITからのつむじ風が吹き続けそ うですね。今後はNYコレクションへの進出も計画されていらっしゃるそうですから、 こちらも楽しみにしています。ありがとうございました。
* ファッションショーの写真はすべて宮沢守さん撮影です*



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